「金を売却したら支払調書が提出されるの?」
「支払調書が提出されると必ず税金がかかるの?」
支払調書制度とは、個人が金地金を1回の取引で200万円を超える金額で売却した際、買取業者が税務署に取引内容を報告する仕組みです。
この制度は脱税や所得隠しを防ぐために導入されましたが、支払調書が提出されたからといって必ずしも税金が発生するわけではありません。
実際に課税されるのは、売却益が出た場合のみとなります。
今回は、「支払調書制度の仕組み」や「支払調書が提出される条件」「課税の有無の判断基準」などについて詳しく解説していきます。
金の売却を検討している方や、すでに売却して税金が気になる方は、ぜひ参考にしてください。
監修者

税理士
松永 幸大
経歴
1972年静岡生まれ。1992年より京都に移住し2005年に松永幸大税理士事務所を開設。
業界団体活動、銀行関係、異業種交流団体、文化福祉スポーツ教育関係等多くの社会活動を通じて得た経験、情報、人脈を顧客に還元できるよう事業を営んでいます。
2019年より京都大学経営管理大学院の上級経営会計専門家プログラム(EMBA)に参加し、未来会計を駆使し、顧客に伴走し経営をサポートできる体制を構築。
企業理念「ちょうどいいしあわせ」のもと、法人個人の税務顧問を務める。
本記事は、税理士 松永 幸大が、2025年12月1日現在の法令・税制等に基づき監修したものです。
当記事は、金の売却に関する税務・法務上の一般的な考え方や制度を解説することを目的としており、読者の皆さま個々の事情を前提とした法律・税務アドバイスを提供するものではありません。
実際に適用される税額や申告義務の有無は、その年の収入や他の所得、各種控除の内容、資産の保有状況、居住地の地方税の取扱いなどにより大きく異なります。また、税制や関連法令は改正等により変更される可能性があります。
したがって、当記事で説明している内容は、あくまで一般的・典型的な取扱いを示したものであり、すべてのケースにそのまま適用できることを保証するものではありません。
具体的な税務・法律上の取扱いについて判断される際には、本記事の内容のみに依拠せず、必ず税務署、税理士その他の専門家へ直接ご相談ください。
当事務所(または当サイト運営者)および執筆者・監修者は、本記事の内容または本記事の利用により生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いかねます。
支払調書制度とは?

支払調書制度とは、個人がインゴット(金地金)を1回の取引で200万円を超える金額で売却した場合に、その対価を支払う買取業者(支払をする者)が税務署に支払調書を提出する仕組みです。
現金取引が多いインゴット売却で譲渡所得の申告漏れが増えたことを受けて導入されました。
金・プラチナ地金などを200万円超で買い取った業者は、売却者の住所や氏名、マイナンバー、売却金額などを記載した「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署へ提出します。
支払調書とは
「支払調書」とは、金・プラチナ・金貨などの金地金等を1回の取引で200万円を超える金額で買い取った際に、買取業者が税務署に提出する法定調書を指します。
支払調書は所得税法で定められた法定調書の一種であり、金地金等を買い取る業者(支払をする者)が、取引の詳細や売却者の個人情報を記載して税務署に提出します。
つまり、提出義務を負うのは買取店側であり、売却した個人が自ら税務署へ提出するものではありません。
支払調書制度は脱税や所得隠しを防ぐために法整備された
支払調書制度が法整備された理由は、脱税を防ぐためです。
支払調書制度が整備される以前には、税務調査で金インゴッドの取引における譲渡所得の漏れが多数発覚していました。
そういった脱税・所得隠しを防止するためには、税務署が譲渡所得を把握する必要が生じます。
その把握方法として書類の提出を義務づけたのが、「支払調書制度」なのです。
支払調書に記載する項目
国税庁が定める「金地金等の譲渡の対価の支払調書」では、買取業者が税務署に提出する際、売却した人と取引内容を把握するために、次のような項目が記載されます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 住所(居所) | 売却した人の現住所 |
| 氏名 | 売却した人のフルネーム |
| 個人番号(マイナンバー) | 税務管理のための12桁の番号 |
| 金地金等の種類 | 金地金・プラチナ地金・金貨などの区分 |
| 重量 | 1本あたりや1枚あたりの重さ |
| 数量 | 何本・何枚売却したかという個数 |
| 支払金額 | 買取手数料控除前の支払総額 |
| 支払確定年月日 | 金額が確定した取引日 |
上記はすべて、本人確認書類や買取明細を確認すれば分かる基本情報です。
そのため、支払調書に記載する項目さえ把握しておけば、必要以上に身構える必要はありません。
住所・氏名・マイナンバーと、売却内容の基本情報を準備しておけば十分です。
支払調書の対象となる金額と品物について
支払調書が必要なのは「対象となる品物」を、1回の取引で合計200万円を超える金額で売却した場合です。
対象となる品物と対象外の品物
| 区分 | 支払調書の対象か | 具体例 |
|---|---|---|
| 金地金(インゴット) | 対象 | K24インゴットなど |
| プラチナ地金 | 対象 | プラチナインゴット |
| 金貨 | 対象 | 各種金貨 |
| プラチナコイン | 対象 | プラチナコイン各種 |
| 純金積立の現金化 | 対象 | 積立を解約して現金で受け取る場合 |
| 銀地金 | 対象外 | 銀インゴットなど |
| 貴金属ジュエリー等 | 対象外 | 指輪・ネックレス・宝石付き製品 |
支払調書の対象外であっても、売却益が出ている場合には譲渡所得として確定申告が必要になることがあります。支払調書の有無と、税金の申告義務の有無は別の話になります。
また、1回の取引での支払金額(買取手数料控除前)が200万円を超えるかどうかで判断します。
| ケース | 合計金額 | 支払調書 |
|---|---|---|
| 金インゴット1kgを一度に売却(時価500万円と仮定) | 500万円 | 必要 |
| 金インゴット100gを10本に分け、別々に売却(各50万円) | 各回50万円 | 各取引では不要 |
| 金インゴットを100万円、プラチナコインを100万円同時に売却 | 合計200万円 | 原則不要 (支払金額が200万円を超えていないため) |
このように、同じ取引の中で対象となる品物を合計して200万円を超えれば支払調書の対象になり、別々の取引として行えば「1回あたり」の金額で判定されます。
支払調書の対象外となる金額について
金を売却する場合、1回の支払金額(買取手数料控除前)が200万円以下なら支払調書の対象外となります。
| 取引内容 | 1回の支払金額 | 支払調書の扱い |
|---|---|---|
| 100gインゴット1本を売却 | 80万円 | 対象外 |
| 100gインゴット2本を同時に売却 | 160万円 | 対象外 |
| 100gインゴット3本を同時に売却 | 240万円 | 対象(参考) |
同じタイミングの売却は上の表のように合計金額で判定され、200万円を超えなければ支払調書の提出は原則不要になります。
支払調書は取引年月日の翌月までに最寄りの税務署へ提出する
支払調書は、金地金等の買取を受けた業者(=支払をする者)が、取引年月日の翌月末までに最寄りの税務署へ提出する必要があります。
例えば、1月に金インゴットの買取があり支払金額が200万円を超える場合、買取業者が2月末までに支払調書を税務署に提出する義務を負います。
支払調書が提出されるからといって必ず課税が生じるわけではない
金地金を200万円超で売却すると支払調書が税務署に提出されますが、必ずしも税金が発生するわけではありません。
課税されるのは実際に利益が出た場合のみです。
支払調書は買取業者が提出する情報提供書類に過ぎず、課税の有無は「売却価格−取得価格」で計算される譲渡所得で判断されます。
| 売却価格 | 取得価格 | 譲渡所得 | 課税の有無 |
|---|---|---|---|
| 250万円 | 300万円 | -50万円 | 課税なし |
| 250万円 | 220万円 | +30万円 | 課税なし(50万円以下) |
| 250万円 | 180万円 | +70万円 | 課税あり |
支払調書は業者の義務として提出されるものであり、実際の課税は譲渡所得の金額次第です。
支払調書が提出されていなくても、売却益が出ていれば本来は納税者自身が確定申告を行う必要があります。

金売却における支払調書に関するよくある質問
金売却における支払調書に関するよくある質問に回答します。
金の売却を検討している方や、すでに売却した方はぜひ参考にしてみてください。
金売却で利益が出た場合は確定申告は必要ですか?
金を売却して利益が出た場合、支払調書の有無にかかわらず、原則として確定申告が必要になります。
なぜなら、金の売却益は「譲渡所得」とされ、年間の利益から最大50万円までの特別控除を差し引いた残りの金額に対して課税される仕組みだからです。
例えば、1年間で金の売却益が70万円あった場合、50万円を差し引いた20万円が課税対象となり、給与所得などと合計して確定申告で申告します。
一方、売却益が50万円以下でほかの譲渡所得もないなら、原則として税金も申告も不要になるケースが多いです。
金を売却後に確定申告をしないとどのようなペナルティがありますか?
金を売却して本来は確定申告が必要なのに申告しないと、無申告加算税や延滞税などのペナルティを受ける可能性があります。
申告していない利益が見つかると、本来の所得税に加えて、期限までに申告しなかったペナルティとして無申告加算税(自主的な期限後申告なら原則5%、調査で発覚すると15~20%など)や、納付が遅れた日数分の延滞税が上乗せされます。
悪質と判断されれば重加算税などさらに重い追徴を受ける場合もあります。
このように、支払調書によって取引は税務署に知られる可能性が高く、申告漏れは後から発覚しやすいです。
支払調書の提出基準である200万円は税込・税抜のどちらですか?
支払調書の提出基準となる200万円は、原則「消費税込みの支払金額」で判断され、この税込の支払金額が200万円を超えるかどうかで対象かどうかが決まります。
たとえば本体190万円+消費税19万円=209万円で売却した場合、税抜は200万円未満でも、税込では200万円超となるため支払調書の対象になります。
したがって、金を売るときに200万円ラインを意識するなら「税込・手数料控除前の金額」で考えることが大切です。
法人が金を売却した場合も支払調書の提出義務はありますか?
法人が金を売却した場合、支払調書の提出義務は基本的にありません。
株式会社名義で金地金を一度に300万円売却しても、買取業者側は本人確認や取引記録は残しますが、税務署あての支払調書は作成しない運用です。
このように、法人が金を売却しても支払調書は提出されませんが、法人側での利益の計上や申告は別途必要になりますので、帳簿処理は忘れずに行うようにしましょう。
まとめ
金の売却における支払調書制度では、金地金やプラチナ地金などを1回の取引で200万円を超えて売却した場合、買取業者が税務署に支払調書を提出する仕組みとなっています。
この制度は脱税や所得隠しを防ぐために導入されたもので、支払調書が提出されたからといって必ずしも課税されるわけではなく、実際の譲渡所得(売却価格-取得価格)で課税の有無が判断されます。
今回紹介した支払調書の対象となる品物や金額の基準、確定申告が必要なケースを正しく理解し、金を売却するようにしましょう。
本記事は、税理士 松永 幸大が、2025年12月1日現在の法令・税制等に基づき監修したものです。
当記事は、金の売却に関する税務・法務上の一般的な考え方や制度を解説することを目的としており、読者の皆さま個々の事情を前提とした法律・税務アドバイスを提供するものではありません。
実際に適用される税額や申告義務の有無は、その年の収入や他の所得、各種控除の内容、資産の保有状況、居住地の地方税の取扱いなどにより大きく異なります。また、税制や関連法令は改正等により変更される可能性があります。
したがって、当記事で説明している内容は、あくまで一般的・典型的な取扱いを示したものであり、すべてのケースにそのまま適用できることを保証するものではありません。
具体的な税務・法律上の取扱いについて判断される際には、本記事の内容のみに依拠せず、必ず税務署、税理士その他の専門家へ直接ご相談ください。
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